4月25日 俳優の田中実が亡くなった
彼が良い役者だったかどうかわからない
そういう目で見たことがないから
なぜなら・・・・・
彼はかけがえのない友だったから
高校の入学初日
期待と不安に胸を膨らませながら
教室のドアを開けた そこに彼は居た
目立つ行動をするわけではないのに
彼はひときわ大きい存在感だった
自然体でたたずむ彼はまるで太陽のようだった
その時、「彼には勝てないな」と思った
いい男同士(当時イケメンという言葉はなかったので)すぐに意気投合した
彼の家にもよく遊びに行った
一緒にアルバイトもした
清掃の仕事だった
まさかそれが今の僕の本業になるなんて
我々が通った高校は毎年クラス替えをしたにもかかわらず
僕と彼は三年間同じクラスだった
縁だとは思うけど
まるで僕に三年間二番手でいろと神様が言っている気がした
そう思っている時点で僕は「彼には勝てないのかな」と思った
いつの日か どちらからともなく
お互い俳優を目指そうと誓った
正しくは誓ってはいないのかもしれない
お互いが心の中で認め合っていたのかもしれない
ある日、横浜にある、映画の専門学校の説明会に行こうという話になった
たぶん彼から言い出したと思うけど
僕の記憶があいまいな今
もうそれがどっちなのか知る術はない
専門学校の講師の熱い思いや、生徒さん達の輝く目を見て
お互い感動し、ここに入学したい気持ちが湧き上がった
帰り道、ここに入学しようという話をした覚えがある
僕は、入学する前から最大のライバルを抱えてしまうことになったが、
それは僕の運命のような気がしたので、
受け入れようと思った
俳優養成の専門学校に入ったら
より一層「彼には勝てないな」と思った
ところが
そこら辺からお互いの進む道が違ってきた
僕は芸能人に
彼は役者になりたかったのだ
僕は僕で自分なりに動いた
一人で動いた
なぜなら
彼と一緒だと『彼には勝てない」からだ
そんな時、映画『生徒諸君』のキョンキョンの相手役のオーディションがあった
僕は迷うことなく「一人」で受けた
一次審査も二次審査もとんとん拍子に通り
日本青年館での残り10人のオーディションまで残った
まあ、そこで落ちたわけですが(笑)
というより、結局誰も選ばれず、キョンキョンの相手役は羽賀健二になった
その時、彼がいたらどうなったかなって思う僕がいた
キョンキョンの相手役には選ばれなったけど
クラスメート役で出演したり、雑誌に載ったり、舞台なんかもこなすようになった
形的には、少し僕がリードしたようになったけど
僕はそんなこと少しも思わなかった
彼を知っているから 彼はこんもんじゃないと知っていたから
僕の事務所が
みんなの実力をつけるために
地方の小中学校廻りの仕事を始めた
つらい巡業だった
僕は正直いやだった
実力のある俳優になろうなんて思ってもなかったから
僕の心にいろんな迷いが表れ始めた
そんな時だった
彼が 無名塾を受けると聞いたのは
僕は「嫌な予感がした」
無名塾は何千倍もの倍率を勝ち抜かなきゃならない
でも、彼なら受かってしまうのではないかと思った
僕が自分自身に迷いが生じ始めているときの彼の受験は
僕にとっては「嫌な予感」なのであった
そしてその「嫌な予感」はあっさりと当たってしまうのである
その時僕は「彼に勝てないどころか、もう太刀打ちできない」そう思った
その後、それが理由ではないが僕は役者の道を断念して
その世界から足を洗った
そしてその時にバイトしていた清掃の仕事だけが僕に残った
神様も随分なことをしてくれる
そう感じた
そして僕が人生に目標を失っているときに
彼が『太陽にほえろ』の後番組に出ると聞いた
その時は、彼どうこうではなく
自分のみじめさだけが残った
その後彼は、NHKの朝ドラや民放のドラマにも出て着実に『役者』になっていた
そのころには僕も、清掃の仕事を自分で始め
忙しい日々を送り、彼のことを気にしてる時間が無くなった
そんなある日
彼は『笑っていいとも』のテレフォンショッキングに出演した
その中で、タモリさんに『なんで俳優になったの?』
と聞かれ、『友達が一緒に役者を目指そうって言ったからです』
『今その友達は清掃会社を経営してます』
その言葉で
僕は今までのわだかまりがすべて吹きとんだ
妬みを持ち、成功しなければいいと思っていた自分が恥ずかしいと思うとともに
これからは、陰ながら彼を応援しようと心から思えるようになった
結局、僕は彼に勝つことができずに終わってしまった
でも、もしかしたらひょんなことで彼が『雄一に負けた』と思ったことがあったかもしれない
もう少し歳を取ったらそんな話ができるかもしれないと思っていたのに
『一緒に俳優になろう』
僕がそんなことを言わなければ
彼の人生は違っただろうか
でも、彼には役者以外は似合わない
やっぱり役者になってよかったんだと思う
生まれ変わってもまた彼と同じ時代を生きたい
そして今度こそ彼に
「あいつには勝てないな」
と言わせたい